2011年3月アーカイブ

それでも、私は忘れないうちに、記しておかなければならないと思うものの、
何を記録したいかと自問自答しても、それは今ではないという気持ちが
あったのか何も書けずにいた。
そして、何も書かずにいる状態に身を任せなければならない立場でも
あったのだと思う。
地震の前後のことをひとまず記す。
地震前は、筒井武文祭りだった。厳密には祭りと題されたものではないけれど、
私の中でコトンと来たものがあったらしく、ほぼ祭りだった。
アテネフランセの文化センターに足繁く通い、さほど面白い展開を見せる
わけでもないトークショーを聞いて、腹を空かせて帰ってくるという日々だった。
ホームページに記されていた作品解説の文章に惹きつけられ、
実際の映画もまた、その文章同様に圧倒させる情熱が湧き出ていて、
これが「映画史を逆側へと突き抜ける」ということなのか。と納得したのだった。

地震後、日も経たぬうちに大阪行きが決まり、
大阪へ行ってきた。合間を縫って、憧れの古墳を見に行き、
古墳は地上から見ると、丘くらいでしかないのだということを
気づいたあたりで、古墳めぐりを中断。大阪万博記念公園へと北上する。
闇雲に太陽の塔を目指し、小踊りする気持ちを抑えつつ、
私がiPhoneへ収めた写真群。

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最後のお土産屋さんの前にあった、
「ぼくは売り切れました。」「ぼくも。」
「僕達はいっぱい売ってます。」という立て看板にキュンと来る。
確かにお店には小さな太陽の塔がいっぱい売られていた。
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一冬かけて、やっとのこと、ジャック・デリダの絵葉書Ⅰを読み終える。
長かった。長く、そして、陰鬱だった。
もう陰鬱な冬もおしまいだ。
読み終えたことによる壮大な解放感をまとって、
私は年末に神保町の古本屋で購入したマラルメの詩集を読む。
タイトルは「イジチュールまたはエルベノンの狂気」。
水蒸気や丸底フラスコを思わせるタイトルだなとずっと思っていたのだけれど、
ちゃんとよく読めば、そんなことどこにも書いてない。
序文にはマラルメの理解者と思われる博士の文章がつけられていた。

 後日私は、錯綜を極めた手稿を判読することに、というよりむしろ
 開墾することに、慎重な探検家の歓喜に似た熱狂をもって、
 しがみつき、そしてなんとかその脈絡を捉え得たと信じている。

と書かれていた。
「開墾する」という言葉に、ぷっと笑う。
「開墾する」というと、もう鍬とか持って田畑に立っているイメージが
つきまとい、掘ることばかり、耕すことばかり考えてしまう。
そして、ページを持つ手に力が入った途端、プリッという気の抜けた音を上げて、
ページを背表紙にジョイントされている部分が裂けた。
ノーンと思いながら、黙々と読み進め、半分くらい来たところで、
ぱらぱらと最後までページをめくっていくと、奥付のマラルメの文字が
マルメラになっていた。
チャルメラみたいな響き。今度、スーパーに行ったら、チャルメラを買おう。

写真はパリの博物館で見たトウモロコシ。
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久しぶりに渋谷へ映画を見に行く。
アッバス・キアロスタミ監督の「トスカーナの贋作」。
キアロスタミが初めて国外(イタリア)でメガホンを取った作品で、
ジュリエット・ビノシュが主演。旅先で夫婦に間違われた男女の、
不思議な掛け合いが絡まり合い、偽と真の狭間で心情が揺れ動く。
トスカーナの一地方がまるでイランの大地のように見えた。
映画館のロビーに貼りつけられていた新聞の切り抜きには、
キアロスタミ初のラブストーリーだと書かれていたけれど、
「オリーブの林をぬけて」はイラン特有の究極のラブストーリーだと
認知していた私
としては、初なのか?という気持ちと、
イランを抜け出たキアロスタミはどんな映画を撮るんだろうという好奇心が、
今の季節にピタッと来て、遠のいていた足を映画館へ戻す。
途中、主演の二人の掛け合いが、変、変、変~!と思ってたら、
笑い声が聞こえ、そうだよね!笑っていいとこだよね!と
心強い気持ちになる。
暗い部屋で一人でじっと見ていた時には、キアロスタミの映画、可笑しいなんて
思ったことなかったんだということに気づいた。
写真は、よくよく見てみたら、確かスペインで、ハデハデな靴下を
買ったのではないかと思う店。日本に進出したようである。
3/25に堂々オープン。また靴下を買いに行こう。
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あいこぱ。フランス文学研究から大いなる逃亡後、あっちへふらふらこっちへふらふら。趣味は読書と映画鑑賞。 写真も撮ります。最近はジョギングも始めました。二十代後半にして、内なるアウトドア志向に転換。2009年無二の知己「角ちゃん」とKWネットワーク始動。 月刊川にて大好評更新中。連絡はmail:aikopa@gmail.comまでお願いいたします。

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