先日の日記を書いてから、私は二回救急車に乗り、
ちょっと保健室に行って来るような気軽さで点滴を打ってもらう。
ただ、どうかと思うくらい、調子が悪く、何が調子悪い原因なのかも分からずに、
ただ暑い、暑いと思っていたのだけれど、通常の数倍の速さで母の分身のごとく、
作業したということが、どうやら過労の原因だったのかもしれないなと思う。
母が、あ!と思っている間に小皿を出す、スプーンを取って来る。
そんな魔法使いのような日々を送りながら、
たまの「らんちう」という歌の歌詞に感銘を受ける。
ライブの素敵なバンドだったのだと思う。
パーカッションのランニングシャツの人の盛り上がりが尋常じゃない。
それから、筑摩書房から出ているちくま日本文学の「寺田寅彦」。
カバーに「数多くの警抜な随筆」を残したと書いてあり、
私は人生で初めて出会った形容詞「警抜な」の意味に頭を傾げながら、
読み進めていたけれど、物理学教授をしていた寺田が
満員電車がどのくらいの割合でやって来るとか、
金盥とコップが織り成す音は、どのような環境下で決定されるのかということを、
書いている随筆はおそらく名作で、これが「警抜な」ということなのだなと思った。

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クローゼットの上の段には、ずっと「ひろこ作品」「あいこ作品」と書かれた
段ボールが置いてあった。
小さな頃に描いた絵などを思い出のために取っておくのだとそういう方針の下、
保管され、忘れられてきたものだと思う。
それで、今日はふと箱を開け、中身を調べてみたのだ。
私が幼少期に肺炎にかかった際、看病した父母の日誌を発見する。
感傷的な調子の父の脱字を、母が冷静に訂正していた。
何気ない記録内容と、文章力のなさの奥に、ほろりとさせるものがある。
夢中になって読む。
それから、幼少期に書いた本当にしょうもない作文や、
父母、姉にあてた手紙を読む。
みんなに対して、好きだ好きだと書いてあったので、これは妙だと思い、
姉の方の段ボールも開ける。
姉の方は、やはり、絵のボリュームがあり、
作文といったものは少なかった。
姉の日記の中に、妹に何々をしたら、喜んでくれて、嬉しかったという件が
たびたび登場し、なるほどと思った。
写真は姉が小学校二年生の時に描いた鬼が雨を降らせている絵。
先生から「かわいいおにですね」というコメントをいただいていた。
私もそう思う。
長々と正岡子規を読んだ後、私は、ジョルジュ・ペレックの「煙滅」
読み始めた。
原語ではe抜きで書かれ、日本語版では、い段抜きで書かれている。
失踪した男と失踪した「文字」のミステリー。
ちょっと分厚くて、値も張ったので迷ったけれど、
買わないと損すると思い、まだ寒い2月頃に新宿のブックファーストで
買った本だ。
読み始めて、主人公の幻覚がカサーレスの小説の場面に似ている
という部分で、私は、途中まで読んで、知っている、これは知っている、
何か読んだことがある、でも、カサーレス?はて?
あ、アルフォイ、ビオイ、カサーレス。と記憶の底から呪文のように
湧き上がってくる名前。
でも、タイトルが思い出せない。
独身者の機械みたいな、そんな・・・と思いながら、
アマゾンで調べるとあった。「モレルの発明」である。
私の本棚で世界が一つになる、ボルヘス、ボルヘスと
夢うつつの中で唱えていた時代
を懐かしく思う。

そして、ウィキクオートの「ロシアの諺」が面白い。
「H」の項目に、
哀れなマカールに松ぼっくりがみんな落ちてくる
という諺があり、にやにやしてしまう。
マカールに松ぼっくり。図として、これがロシア的なんだろうか。
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初めて嵐山へ行った。
少年たちが石を川面に滑らせようとしていた。
片方が投げている間も、片方は石を探している。
青春だと思った。
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あわただしい日々も過ぎ、久しぶりに渋谷へとやってきた。
横断歩道の前で佇む男性が、まるで何かの物語の主人公のようだったので、撮る。
ちょっと遠くから。
その後、「私が主役」というコンセプトを自分の中で作り、
街の中で、遠くから、非常に小さい主人公を撮った。
みんな、小さいながらも頑張っている。
その人の個性というか、歴史というか、そういうものが届かない距離でありながら、
小さな感情の波だけがこちらへとやってくるように思うのだ。

そして、最近の私は何かが違っていた。
iPhoneにしてからというもの、メールの誤送信は日常茶飯事だけれども、
留守番電話に録音がありますとかを知らせてくれる1414からのショートメッセージに
返信し、なぜ送信できないのかと自問。4度くらい試して、1414であるということに気づく。
夜、空いた電車で帰り、シャワーを浴びながら、2日ほどボディーソープで洗髪する。
シャンプーとボディーソープの容器が酷似しているのだ。
とりあえず、トリートメントはしておいた。


あいこぱ。フランス文学研究から大いなる逃亡後、あっちへふらふらこっちへふらふら。愛読書はブランショ、百閒、ヴォネガット。写真、 コラージュもやります。連絡はmail:aikopa@gmail.comまでお願いいたします。

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