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こんな風に黄金文学時代が到来した。
ひょいっとこちらを向いてやってきたアライグマが、そそくさと
向こうの方へ隠れてしまう。
ここ数ヶ月、「次」へ行くためには、「次」へ行くためには、
と、そればかり考えていた。
ロケットに乗って、「次」へ行くのだと、私が二十かそこらで
書いたプッカとポッカの戯曲に書かれていたのを思い出す。
内容はほとんど忘れてしまったけれど、「月」ではなくて、
「次」なのだ。ツキなのか、ツギなのか、音として不明瞭な境目で、
とにかく、ツキかツギへ行くのだと主張する登場人物がいて、
でも、本当にロケットに乗り込んだのは、プッカでもポッカでもなくて・・・。
悲しいとか、寂しいとか、そこに至る前に突然の別れのすり替えで、
私たちはひとまず安心し、そして、最後に不安げな余韻が残る。
そんな戯曲だったのではないか。
あの時も、登場人物が「ファーファー」言っていた。
意外に好きな言葉なのかもしれない。ファーファー。
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角ちゃんと伊豆へ旅行へ行き、
河津浜から歩いて数分のところから撮った今井浜。
ちょっとガスペジー諸島のことを思い出す。

ヤフー!ニュースは大体毎日iPhoneでも読んでいる。
昨日は、寝ぼけた頭で写真ニュースを見ていた。
写真ニュースの写真と写真の間は限りなく狭い。
キャプションの説明の文字と文字の間はもっと狭い。
でも、かまわず読んでいた。

「日本一」へ力込め イスに記した言葉は
7000人のサンタ 古代衣装で市議会

何か近いけれども、まだまだ遠い。
頭の中でもやもやしている言葉を、どうやって吐き出すか。
私はできれば君に、君にまで到達したい、
私の唯一の運命よ、そして私は走る、走る、そして私は
ころんでばかりいる、一歩ごとに、というのも、私たちの
はるか以前に、あまりにも早く、(・・・・・・)があっただろうから

とか、

私のIの上に点を打つことをもう君が私に許してくれなくなるときには、
空が私の頭上に落ちてくるだろう、そしてその落下には際限がなく、
私は別の方向に横たわることになるだろう

と、ジャック・デリダが「絵葉書Ⅰ」の中で書いている。
この転倒するイメージがしばしば登場するのだけれど、
ちょっと突然倒れる雰囲気が可笑しい。演劇的だ。と思った。
おそらく、物理的因果関係なしに、彼は転倒していて、
もちろん、その転倒も彼の頭の中で行われている転倒でしかない
のかもしれないけれど、その文章を読んでいる私には、
いきなり「転倒」したように思われ、その転倒がすごく、
印象的で、人は普通、何かにつまずいたり、足がもつれたり、
気を失ったり、何らかの大きなものに突然、ぶつかられたり、
そういうわけで転倒しているわけなのだけれど、
デリダは違う。
Iの上に点が打てなくなっただけで、立っていられなくなる。
突然、襲い掛かる「転倒」、そのダンスのようなイメージに
魅せられる。
思い返してみると、角ちゃんが考案した、何かの攻撃を
受け止めながら、後ろへ進んでいくダンスも、
転倒しそうになる場面があり、動きがゆったりとしながらも、
ダイナミックで魅力的だった。
転倒、底知れない魅力。
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タル・ベーラ監督の「倫敦から来た男」という映画を見た。
ジョルジュ・シムノン原作の推理小説が、ハンガリーの鬼才タル・ベーラにかかると、
すごい。
鑑賞者に強いる忍耐力に対して、敬意ある対価を、ちゃんと与えてくれる。
個人的に印象的なシーンがあって、
この映画の50%以上の会話が繰り広げられる宿屋のカフェで、
淡々とした登場人物の会話風景を長回しした後に、
ビリヤード台の周りで、アコーディオンを弾く人と、
その音に合わせて、おじさんが椅子をひょいひょい回していて、
その動きがまるで、天井から吊るされた椅子がくるくる回っているようで、
とてもファンタジックだった。

写真は、角ちゃんと行った多摩動物園。
何げなく眺めていたBSワールドニュースで、こんなことを言っていた。
エジプトの博物館は創立100年を祝うために、
7年くらい前から修復工事をしていて、ようやく完了したらしいのだけれど、
創立100年を祝うのが100年目であっても、105年目であっても、
どちらでも良いんですというようなことを言っていて、
すごいと思った。
5年の歳月など、エジプトでは大したものではないのだ。
105年目に祝うことについて、さらっと言えてしまう、
一見、怠惰とも見える、そのゆるりとした空気、
魅力的だなと思う。

そして、来年のカレンダーにまだ着手できずにいて、
おそらく作り始めてしまえば、すぐに完成しそうだと思うものの、
元旦に間に合うだろうかと、もそろもそろ思う。
でも、それでも、着実に立ち上がって、前進しているように思うのだ。
もう、ほふくではない。


あいこぱ。フランス文学研究から大いなる逃亡後、あっちへふらふらこっちへふらふら。愛読書はブランショ、百閒、ヴォネガット。写真、 コラージュもやります。連絡はmail:aikopa@gmail.comまでお願いいたします。

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