July 30, 2006

いきなり最終回。理由はムーンライト・キュウリ。

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「ねぇ、もしアリクイじゃなくても、私たち」
ぐちゃぐちゃになった装飾とその隙間から雑然と見える
天井を眺めながらミッチャンは静かに言った。
「ずっと今みたいに仲良しかなぁ。」
アリクイはアリクイだった。まだ。依然として。
さぁ。どうかなぁ。とアリクイは思った。
思ったけれど、アリクイはこう言った。
「分からないけれど、アリクイじゃなくても、きっと」
でも、でも、どうだろう、やっぱり、毛むくじゃらの、
毛じゃむくらの、アリクイが、いい。とミッチャンは思った。
でもミッチャンはこう言っていた。
「きっと仲良しだよね。今とはちがう風に」
「うん。そうかもしれないね。」
とアリクイは、言った。自分に、そしてミッチャンと
ミッチャンの出会うことのなかったかもしれないアリクイじゃない、
じゃないじゃない自分に。
じゃないじゃないを振りほどきたいアリクイと、
やっぱりやっぱりと込み上げてくるミッチャン。
ぎゅうっと白い毛並みをつかんで、ミッチャンは
たぶん泣いていた。勢いよく息を吸い込むと、
よく干された毛布のにおいに混じって、アリクイのにおいがした。
ミッチャンのにおいもした。アリクイもゆっくりと息を吸い込んだ。
毛布とアリクイとミッチャンのにおいがした。
アリクイはくふんと声を出した。
うんと小さく答えるミッチャン。
月の光を浴びて窓辺に吊るしてあったキュウリの輪切りが
ぼんやりと光っていた。
維管束が淡い緑色の水玉模様を描いていた。
たぶん、ミッチャンも同じように、にじんだ世界を見ていたと思う。
そしてアリクイもまた。

: : : :

いきなり最終回の訳は、すでに進行中の物語のトンネルに
迷い込んだというのもある。くんむ。くむくむ。毛布でトンネル作り。
写真は、スタバから。夜。
最終回を書いて、三時間後くらいに撮った。
本当はキュウリの写真が欲しかった。かもしれない。ちくわでもいい。
いつだって終わりにする時は次があるからだ。
次がないといつまでもずるずると続いていく。そういうちくわかもしれない。

最近は、ヤン=アルテュス・ベルトランの空からの写真集を買ってしまった。
送られてくる。アマゾンから。わっきわっき。
あと、映画を見てないので、中古ビデオ屋でアルモドバルの映画を衝動買い。
家に帰ってから、パッケージをよく見ると、アルモドバルも出てる。
何だか微妙な気持ちで満たされた。
それとアラン・ロブ=グリエの本も神保町でぱぱっと買ってしまった。
写真のアラン・ロブ=グリエは髪の毛が振り乱れていて、何だか
えーとメデューサみたいだったかもしれない。
そこにあった、彼の本を二冊とも買ったせいか、
お店の人に「(この本を見つけたのは)偶然ですか?」と声をかけられ、
「偶然です」と答えた。偶然で彩られる日常。カゼマカセ。

投稿者 aikopa : 12:04 PM

July 21, 2006

くんぱちさんたちとミッチャンと上機嫌な夜

アリクイもまた上機嫌だった。管をくるくると巻いて、
アフロ状態だった。あちゃ、あちゃ、こてと踊る。
しまいには、ワン、ワンと相づちを打ち出した。
「酔っぱらってるでしょ?」とミッチャン。
「ワン、酔っぱらいましタ。」とアリクイ。
そんなやり取りが何度となくリフレインした後に、
ぱたと横になったアリクイはくかーくかーすうすうと眠りだした。
「ミッチャン、ミッチャン」とくんぱちさん。
「冷えちゃうから毛布かけてあげて」と、もも色の毛布を渡された。
毛布をかけると、アリクイの丸まった小さな背中が呼吸に合わせて
ふくらんだりしぼんだりした。何だかデジャブだった。
ミッチャンは、前にもこんなアリクイを見ていたような気がした。
知らないうちに頭をなでていた。毛づくろいされてるみたいに
気持ち良くなったアリクイは、こんな夢を見ていた。
ブルーハワイの色をした太平洋にぽっかりと浮かぶ島。
きらきらと光る白浜に透き通る波がふわふわと打ち寄せていた。
すると遠くの方にくんぱちさんがいた。夢の中のくんぱちさんは、
アロハ柄のはっぴを着て、みょーんと地平線上に横たわる長い
のり巻を持っていた。
「見てくれたかの〜?白いの〜。できたぞ〜。できたんじゃ〜。
のり巻太平洋横断じゃ〜。」
わぁ、すごいやとアリクイは思った。
さすがくんぱちさん。やることがパシフィック。
バシャバシャとアリクイが駆けていくと、くんぱちさんがにっと
笑った。後ろの方からウクレレを奏でるミッチャンの歌声が
聞こえたような気がした。
ボサノバ風にアレンジされたサンバだった。
目が覚めてみると、本当にミッチャンが歌っていた。かすかな声。
リズムに合わせて、アリクイの背中をぽんぽんと叩いていた。
アリクイはそのままもう一回、目をつぶった。
よく干された毛布の匂いがした。

: : : :

実家に戻った。
ぼやけた画像が撮れるデジカメを買った。
五時半に起きて、朝、友人に会いに行った。
私の目は血走っていた。本気の目はいつだって、眠そうで血走っている。
雨が降って、靴下が濡れた。かばんも濡れた。
アテネに行くと、京都の実家から帰ってきた友人が、
京都のアクセントが抜けずにいたのだけれど、
私はそれに気づくまでどうしちゃったんだろうとあれ?あれれと
思った。
何も。何もない。
少子化対策を考えるという宿題が出たので、あれこれと考えたけれど、
インドとかバングラデシュ?みたいな人口が爆発している国から
養子縁組をもらうとか、すべての娯楽を排除するとか、何だか突拍子もない
アイディアしか浮かばず、何だか悲しくなった。
おそらく私は少子化なんかどうでもいいと思っているのだ。と思った。
授業でジダンを許すか許さないかっていう議論の時も、もごもごと
どっちでもいいと言ってしまった。
私はこれからたくさんの時間を棒に振り、しかも野球のバットとかじゃなくて、
カブトムシに餌をあげるような割り箸の棒で、それで、
セーターの伸び縮みのことを気にし、蒸気をかけてパタパタやって
蒸気を抜くんだろうか。けれど蒸気は何のために?

投稿者 aikopa : 7:52 PM

July 14, 2006

サンバが打ち寄せてきて

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けれど打ち寄せてきたのはサンバのリズムだけではなかった。
くんぱちさんの兄弟のかんぱちさん、きんぱちさん、けんぱちさん、
こんぱちさんがやって来たのだ。今日はどうやら、けんぱちさんの
誕生日らしい。皆ドヤドヤとやって来て、奥の方に行ったかと思うと、
紺色のはっぴに着替えて戻ってきた。
だめだ〜。うりふたつ。とミッチャンは思った。
いや、うりいつつかな?
そんなミッチャンの隣で、雑巾を片手にアリクイは、
うわ〜、くんぱちさんがいっぱい、いっぱいいる〜、
ひゅ〜ばたん。倒れ込んだアリクイをめくるめく、
くんぱちさんたちが見つめる。
そしてその円の終わりと始めを示すようにミッチャンが
覗き込んでいた。
後からやって来た本当のくんぱちさんがくんぱちさんたちを
かき分けて、円の中心に入る。
「おい、白いの、大丈夫かの?」
くんぱちさんは、ゆさゆさとアリクイの身体を揺さぶった。
みょーんと伸びた鼻が、口が、ガクガクと上下した。
その揺れに連動して、ん、あ、あ、という声が
あさっての方向に散らばった。
「白いの、どうした?大丈夫かの?」
ぱちくりとまばたきをして、何とか世界の分裂を止めようと
思ったアリクイは、「くんぱちさん?」と言うのが精一杯だった。
「白いの、前に話したじゃろ。五つ子の兄弟のかんぱち、
きんぱち、けんぱち、こんぱちだよ。今日は、つまり、その、
私たち皆の誕生日なんじゃの。毎年、うちで会を開いて・・・、
もう何年くらいか・・・、うーん。」とくんぱちさんは考え込んだ。
すると、くんぱちさんたちは、かわるがわる、口々に、
さあ分からんのう、どうじゃったか・・・、知らんぬ、忘れたと
言った。
「まぁ、とにかく、今日は特別な日なんだの。腕を振るって
ごちそうを作るぞい、白いの。」
と言って、くんぱちさんは厨房へとアリクイを引っ張っていった。
くんぱちさんたちは、店内いっぱいに紙テープを張りめぐらし、
ミラーボールをつけて、ジャングル・ミーツ・ディスコテックを
演出していた。
くんぱちさんはこの日のために特別のメニューを準備していた。
鳥とか、サイとかチーター、ゾウ、ウサギなどのかたちをかたどった
果物が入ったサファリ・ポンチ、ガジュマルの幹をくり抜いたところから
にんじんやセロリの野菜スティックがにょきにょき出ているのとか、
色とりどりの巻き寿司が天井に届くくらいまで積み上げられたのとか、
海藻のジャングルの中に赤や白の刺身で花びらが作られているのとか、
口の中で泡がぱちぱちとはじけるコカ寿司、ココナッツの殻に酒を入れて
乾杯した。北緯35℃の熱帯。上機嫌な夜。

: : : :

写真はリナスからの眺め。
最近はこんなことを考えていた。
人生の引退試合には、私も大いなる頭突きをかましたい。
けれど、サポートされなくなった人生に私たちは何の救いを
求めたら良いのだろうか。
などと時事問題のボキャブラリーを使って人生を語る方法を
考えていた。
携帯でぼやけた写真を撮り、電気屋さんでそういう写真が撮れる
カメラが欲しいと言ったのだけれど、どれもこれもぼやけていなくて、
むしろブレていた。最近はブレてない、そんなカメラが流行だ。
参ったな。一眼なんて買いたくない、重いし、気が重くなる。
写真好きの友人は、デジカメなら後でパソコンで処理するとか、
ホルガみたいなアナログなカメラが良いんじゃないと言ってくれたが、
あの手軽さの延長線上にいつもいたいと思ったのだった。

投稿者 aikopa : 12:01 PM

July 11, 2006

気分はもう熱帯

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熱帯植物館に行ってきた。

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最近見た映画。
バス男。邦題はパ繰りですが、面白い。面白かった。
主人公の冴えない男の子が、終盤ジャミロクワイに乗って、
くねくねと踊るのだけれど、笑いが止まらない。
他にも、冴えないということをこれほどまで演出してくれると、
潔くて可笑しい。よくある王道パターンだけれど、
夜起きた時に床の幾何学模様がチカチカしだすような、
病みつき感があった。

靴に恋して。
情熱のスペイン。
靴、靴、靴ばかりが出てくる。黄色いスニーカーとか、
ガムテープで補修された赤いハイヒールとか、ぐっと来る。
けれど、話は出てくる女性は皆、恋に破れ、
男という男は大体ホモだった。参った。

まぁ、そんなところ。

投稿者 aikopa : 5:19 PM

July 9, 2006

また今度の後

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ミッチャンはすぐに常連になった。
ミッチャンは夕方の開店前に来て、ぼーっとするのが好きだった。
たまに携帯のカメラでアリクイを追いかけ回していた。手とか鼻とか
背中だけが写っている写真が大量に撮れた。でも、大半はただ
椅子に座って、ぼんやりと開店前の風景を見ているのだった。
その日もミッチャンはぼんやり考えていた。
もしタイトルがスーホの白いホースだったら、何だかどれが馬なのか
分からなくなって、十分混乱するだろうなぁとか、それとか、
ジーキル博士とハイドウ氏だったら、もっともっと馬っぽくなると
ミッチャンは思った。
アリクイが背伸びをしてガラス窓を拭いているのを見ながら、
そんなことを考えていた。
アリクイはその視線を背中に受けながら、キュッキュッと窓を拭いていた。
そして、こんなことを考えていた。
もしギネスに挑戦するドミノの無数の列が最後のやつの一歩手前で
止まってしまったら、へやぁ、何て気持ち悪いんだろう、
最後のドミノは何も悪くないのに、すごく居心地が悪いだろうし、
何の根拠もない罪悪感を感じるだろうし、心は島流しの刑にあって、
老後のロビンソン・クルーソーのサンバを踊り出して、何で何で
サンバなのかという問いに答えを見出せないままでいるのかもしれない。
それってそれってとアリクイは思った。
それって途方もなく悲しいのに、ちょっと楽しいかもと思った。
足がトコトントンとリズムを刻む。
ミッチャンの頭の中でも、スーホが、白いホースが、
ジーキル博士が、ハイドウ氏がトコトントンと踊っていた。
馬頭琴によって導き出された主旋律と隠れんぼを繰り返すように
サンバのリズムが打ち寄せる。

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写真は隅田川。夕暮れ。
こんな風景を見ながら、私は角ちゃんを待っていた。
最近は、些細なことでやる気を削がれ、また鼓舞し、
一喜一憂の日々だった。
スカートの憂鬱後、私は何を見、何を食べたのか。
昨日は、フォーを食べながら、将来のベクトルを
おねいちゃんに引いて貰った。
人に会うたびに私はベクトルを引いて貰い、
私はただ、その中から選べば良い。
おねいちゃんとは、久しぶりに作る話をして、やっぱり、
そういう話が私はおねいちゃんとしたかったんだと思った。
それから、アリクイはきっとこんなのだよと言って、
サラサラと描いてくれた。でも、耳がない。二人とも、どんな耳だったか、
思い出せずにうんにゃかんにゃと言っていた。

投稿者 aikopa : 4:36 PM
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