July 9, 2006

また今度の後

sumidagawa060708.jpg

ミッチャンはすぐに常連になった。
ミッチャンは夕方の開店前に来て、ぼーっとするのが好きだった。
たまに携帯のカメラでアリクイを追いかけ回していた。手とか鼻とか
背中だけが写っている写真が大量に撮れた。でも、大半はただ
椅子に座って、ぼんやりと開店前の風景を見ているのだった。
その日もミッチャンはぼんやり考えていた。
もしタイトルがスーホの白いホースだったら、何だかどれが馬なのか
分からなくなって、十分混乱するだろうなぁとか、それとか、
ジーキル博士とハイドウ氏だったら、もっともっと馬っぽくなると
ミッチャンは思った。
アリクイが背伸びをしてガラス窓を拭いているのを見ながら、
そんなことを考えていた。
アリクイはその視線を背中に受けながら、キュッキュッと窓を拭いていた。
そして、こんなことを考えていた。
もしギネスに挑戦するドミノの無数の列が最後のやつの一歩手前で
止まってしまったら、へやぁ、何て気持ち悪いんだろう、
最後のドミノは何も悪くないのに、すごく居心地が悪いだろうし、
何の根拠もない罪悪感を感じるだろうし、心は島流しの刑にあって、
老後のロビンソン・クルーソーのサンバを踊り出して、何で何で
サンバなのかという問いに答えを見出せないままでいるのかもしれない。
それってそれってとアリクイは思った。
それって途方もなく悲しいのに、ちょっと楽しいかもと思った。
足がトコトントンとリズムを刻む。
ミッチャンの頭の中でも、スーホが、白いホースが、
ジーキル博士が、ハイドウ氏がトコトントンと踊っていた。
馬頭琴によって導き出された主旋律と隠れんぼを繰り返すように
サンバのリズムが打ち寄せる。

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写真は隅田川。夕暮れ。
こんな風景を見ながら、私は角ちゃんを待っていた。
最近は、些細なことでやる気を削がれ、また鼓舞し、
一喜一憂の日々だった。
スカートの憂鬱後、私は何を見、何を食べたのか。
昨日は、フォーを食べながら、将来のベクトルを
おねいちゃんに引いて貰った。
人に会うたびに私はベクトルを引いて貰い、
私はただ、その中から選べば良い。
おねいちゃんとは、久しぶりに作る話をして、やっぱり、
そういう話が私はおねいちゃんとしたかったんだと思った。
それから、アリクイはきっとこんなのだよと言って、
サラサラと描いてくれた。でも、耳がない。二人とも、どんな耳だったか、
思い出せずにうんにゃかんにゃと言っていた。

投稿者 aikopa : July 9, 2006 4:36 PM