July 30, 2006

いきなり最終回。理由はムーンライト・キュウリ。

staba-nuit.jpg


「ねぇ、もしアリクイじゃなくても、私たち」
ぐちゃぐちゃになった装飾とその隙間から雑然と見える
天井を眺めながらミッチャンは静かに言った。
「ずっと今みたいに仲良しかなぁ。」
アリクイはアリクイだった。まだ。依然として。
さぁ。どうかなぁ。とアリクイは思った。
思ったけれど、アリクイはこう言った。
「分からないけれど、アリクイじゃなくても、きっと」
でも、でも、どうだろう、やっぱり、毛むくじゃらの、
毛じゃむくらの、アリクイが、いい。とミッチャンは思った。
でもミッチャンはこう言っていた。
「きっと仲良しだよね。今とはちがう風に」
「うん。そうかもしれないね。」
とアリクイは、言った。自分に、そしてミッチャンと
ミッチャンの出会うことのなかったかもしれないアリクイじゃない、
じゃないじゃない自分に。
じゃないじゃないを振りほどきたいアリクイと、
やっぱりやっぱりと込み上げてくるミッチャン。
ぎゅうっと白い毛並みをつかんで、ミッチャンは
たぶん泣いていた。勢いよく息を吸い込むと、
よく干された毛布のにおいに混じって、アリクイのにおいがした。
ミッチャンのにおいもした。アリクイもゆっくりと息を吸い込んだ。
毛布とアリクイとミッチャンのにおいがした。
アリクイはくふんと声を出した。
うんと小さく答えるミッチャン。
月の光を浴びて窓辺に吊るしてあったキュウリの輪切りが
ぼんやりと光っていた。
維管束が淡い緑色の水玉模様を描いていた。
たぶん、ミッチャンも同じように、にじんだ世界を見ていたと思う。
そしてアリクイもまた。

: : : :

いきなり最終回の訳は、すでに進行中の物語のトンネルに
迷い込んだというのもある。くんむ。くむくむ。毛布でトンネル作り。
写真は、スタバから。夜。
最終回を書いて、三時間後くらいに撮った。
本当はキュウリの写真が欲しかった。かもしれない。ちくわでもいい。
いつだって終わりにする時は次があるからだ。
次がないといつまでもずるずると続いていく。そういうちくわかもしれない。

最近は、ヤン=アルテュス・ベルトランの空からの写真集を買ってしまった。
送られてくる。アマゾンから。わっきわっき。
あと、映画を見てないので、中古ビデオ屋でアルモドバルの映画を衝動買い。
家に帰ってから、パッケージをよく見ると、アルモドバルも出てる。
何だか微妙な気持ちで満たされた。
それとアラン・ロブ=グリエの本も神保町でぱぱっと買ってしまった。
写真のアラン・ロブ=グリエは髪の毛が振り乱れていて、何だか
えーとメデューサみたいだったかもしれない。
そこにあった、彼の本を二冊とも買ったせいか、
お店の人に「(この本を見つけたのは)偶然ですか?」と声をかけられ、
「偶然です」と答えた。偶然で彩られる日常。カゼマカセ。

投稿者 aikopa : 12:04 PM

July 21, 2006

くんぱちさんたちとミッチャンと上機嫌な夜

アリクイもまた上機嫌だった。管をくるくると巻いて、
アフロ状態だった。あちゃ、あちゃ、こてと踊る。
しまいには、ワン、ワンと相づちを打ち出した。
「酔っぱらってるでしょ?」とミッチャン。
「ワン、酔っぱらいましタ。」とアリクイ。
そんなやり取りが何度となくリフレインした後に、
ぱたと横になったアリクイはくかーくかーすうすうと眠りだした。
「ミッチャン、ミッチャン」とくんぱちさん。
「冷えちゃうから毛布かけてあげて」と、もも色の毛布を渡された。
毛布をかけると、アリクイの丸まった小さな背中が呼吸に合わせて
ふくらんだりしぼんだりした。何だかデジャブだった。
ミッチャンは、前にもこんなアリクイを見ていたような気がした。
知らないうちに頭をなでていた。毛づくろいされてるみたいに
気持ち良くなったアリクイは、こんな夢を見ていた。
ブルーハワイの色をした太平洋にぽっかりと浮かぶ島。
きらきらと光る白浜に透き通る波がふわふわと打ち寄せていた。
すると遠くの方にくんぱちさんがいた。夢の中のくんぱちさんは、
アロハ柄のはっぴを着て、みょーんと地平線上に横たわる長い
のり巻を持っていた。
「見てくれたかの〜?白いの〜。できたぞ〜。できたんじゃ〜。
のり巻太平洋横断じゃ〜。」
わぁ、すごいやとアリクイは思った。
さすがくんぱちさん。やることがパシフィック。
バシャバシャとアリクイが駆けていくと、くんぱちさんがにっと
笑った。後ろの方からウクレレを奏でるミッチャンの歌声が
聞こえたような気がした。
ボサノバ風にアレンジされたサンバだった。
目が覚めてみると、本当にミッチャンが歌っていた。かすかな声。
リズムに合わせて、アリクイの背中をぽんぽんと叩いていた。
アリクイはそのままもう一回、目をつぶった。
よく干された毛布の匂いがした。

: : : :

実家に戻った。
ぼやけた画像が撮れるデジカメを買った。
五時半に起きて、朝、友人に会いに行った。
私の目は血走っていた。本気の目はいつだって、眠そうで血走っている。
雨が降って、靴下が濡れた。かばんも濡れた。
アテネに行くと、京都の実家から帰ってきた友人が、
京都のアクセントが抜けずにいたのだけれど、
私はそれに気づくまでどうしちゃったんだろうとあれ?あれれと
思った。
何も。何もない。
少子化対策を考えるという宿題が出たので、あれこれと考えたけれど、
インドとかバングラデシュ?みたいな人口が爆発している国から
養子縁組をもらうとか、すべての娯楽を排除するとか、何だか突拍子もない
アイディアしか浮かばず、何だか悲しくなった。
おそらく私は少子化なんかどうでもいいと思っているのだ。と思った。
授業でジダンを許すか許さないかっていう議論の時も、もごもごと
どっちでもいいと言ってしまった。
私はこれからたくさんの時間を棒に振り、しかも野球のバットとかじゃなくて、
カブトムシに餌をあげるような割り箸の棒で、それで、
セーターの伸び縮みのことを気にし、蒸気をかけてパタパタやって
蒸気を抜くんだろうか。けれど蒸気は何のために?

投稿者 aikopa : 7:52 PM

July 14, 2006

サンバが打ち寄せてきて

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けれど打ち寄せてきたのはサンバのリズムだけではなかった。
くんぱちさんの兄弟のかんぱちさん、きんぱちさん、けんぱちさん、
こんぱちさんがやって来たのだ。今日はどうやら、けんぱちさんの
誕生日らしい。皆ドヤドヤとやって来て、奥の方に行ったかと思うと、
紺色のはっぴに着替えて戻ってきた。
だめだ〜。うりふたつ。とミッチャンは思った。
いや、うりいつつかな?
そんなミッチャンの隣で、雑巾を片手にアリクイは、
うわ〜、くんぱちさんがいっぱい、いっぱいいる〜、
ひゅ〜ばたん。倒れ込んだアリクイをめくるめく、
くんぱちさんたちが見つめる。
そしてその円の終わりと始めを示すようにミッチャンが
覗き込んでいた。
後からやって来た本当のくんぱちさんがくんぱちさんたちを
かき分けて、円の中心に入る。
「おい、白いの、大丈夫かの?」
くんぱちさんは、ゆさゆさとアリクイの身体を揺さぶった。
みょーんと伸びた鼻が、口が、ガクガクと上下した。
その揺れに連動して、ん、あ、あ、という声が
あさっての方向に散らばった。
「白いの、どうした?大丈夫かの?」
ぱちくりとまばたきをして、何とか世界の分裂を止めようと
思ったアリクイは、「くんぱちさん?」と言うのが精一杯だった。
「白いの、前に話したじゃろ。五つ子の兄弟のかんぱち、
きんぱち、けんぱち、こんぱちだよ。今日は、つまり、その、
私たち皆の誕生日なんじゃの。毎年、うちで会を開いて・・・、
もう何年くらいか・・・、うーん。」とくんぱちさんは考え込んだ。
すると、くんぱちさんたちは、かわるがわる、口々に、
さあ分からんのう、どうじゃったか・・・、知らんぬ、忘れたと
言った。
「まぁ、とにかく、今日は特別な日なんだの。腕を振るって
ごちそうを作るぞい、白いの。」
と言って、くんぱちさんは厨房へとアリクイを引っ張っていった。
くんぱちさんたちは、店内いっぱいに紙テープを張りめぐらし、
ミラーボールをつけて、ジャングル・ミーツ・ディスコテックを
演出していた。
くんぱちさんはこの日のために特別のメニューを準備していた。
鳥とか、サイとかチーター、ゾウ、ウサギなどのかたちをかたどった
果物が入ったサファリ・ポンチ、ガジュマルの幹をくり抜いたところから
にんじんやセロリの野菜スティックがにょきにょき出ているのとか、
色とりどりの巻き寿司が天井に届くくらいまで積み上げられたのとか、
海藻のジャングルの中に赤や白の刺身で花びらが作られているのとか、
口の中で泡がぱちぱちとはじけるコカ寿司、ココナッツの殻に酒を入れて
乾杯した。北緯35℃の熱帯。上機嫌な夜。

: : : :

写真はリナスからの眺め。
最近はこんなことを考えていた。
人生の引退試合には、私も大いなる頭突きをかましたい。
けれど、サポートされなくなった人生に私たちは何の救いを
求めたら良いのだろうか。
などと時事問題のボキャブラリーを使って人生を語る方法を
考えていた。
携帯でぼやけた写真を撮り、電気屋さんでそういう写真が撮れる
カメラが欲しいと言ったのだけれど、どれもこれもぼやけていなくて、
むしろブレていた。最近はブレてない、そんなカメラが流行だ。
参ったな。一眼なんて買いたくない、重いし、気が重くなる。
写真好きの友人は、デジカメなら後でパソコンで処理するとか、
ホルガみたいなアナログなカメラが良いんじゃないと言ってくれたが、
あの手軽さの延長線上にいつもいたいと思ったのだった。

投稿者 aikopa : 12:01 PM

July 9, 2006

また今度の後

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ミッチャンはすぐに常連になった。
ミッチャンは夕方の開店前に来て、ぼーっとするのが好きだった。
たまに携帯のカメラでアリクイを追いかけ回していた。手とか鼻とか
背中だけが写っている写真が大量に撮れた。でも、大半はただ
椅子に座って、ぼんやりと開店前の風景を見ているのだった。
その日もミッチャンはぼんやり考えていた。
もしタイトルがスーホの白いホースだったら、何だかどれが馬なのか
分からなくなって、十分混乱するだろうなぁとか、それとか、
ジーキル博士とハイドウ氏だったら、もっともっと馬っぽくなると
ミッチャンは思った。
アリクイが背伸びをしてガラス窓を拭いているのを見ながら、
そんなことを考えていた。
アリクイはその視線を背中に受けながら、キュッキュッと窓を拭いていた。
そして、こんなことを考えていた。
もしギネスに挑戦するドミノの無数の列が最後のやつの一歩手前で
止まってしまったら、へやぁ、何て気持ち悪いんだろう、
最後のドミノは何も悪くないのに、すごく居心地が悪いだろうし、
何の根拠もない罪悪感を感じるだろうし、心は島流しの刑にあって、
老後のロビンソン・クルーソーのサンバを踊り出して、何で何で
サンバなのかという問いに答えを見出せないままでいるのかもしれない。
それってそれってとアリクイは思った。
それって途方もなく悲しいのに、ちょっと楽しいかもと思った。
足がトコトントンとリズムを刻む。
ミッチャンの頭の中でも、スーホが、白いホースが、
ジーキル博士が、ハイドウ氏がトコトントンと踊っていた。
馬頭琴によって導き出された主旋律と隠れんぼを繰り返すように
サンバのリズムが打ち寄せる。

: : : :

写真は隅田川。夕暮れ。
こんな風景を見ながら、私は角ちゃんを待っていた。
最近は、些細なことでやる気を削がれ、また鼓舞し、
一喜一憂の日々だった。
スカートの憂鬱後、私は何を見、何を食べたのか。
昨日は、フォーを食べながら、将来のベクトルを
おねいちゃんに引いて貰った。
人に会うたびに私はベクトルを引いて貰い、
私はただ、その中から選べば良い。
おねいちゃんとは、久しぶりに作る話をして、やっぱり、
そういう話が私はおねいちゃんとしたかったんだと思った。
それから、アリクイはきっとこんなのだよと言って、
サラサラと描いてくれた。でも、耳がない。二人とも、どんな耳だったか、
思い出せずにうんにゃかんにゃと言っていた。

投稿者 aikopa : 4:36 PM

June 30, 2006

フィブリノーゲン後

ビュビュンと風を切る。ミッチャンは走っていた。
厳密にはそのスピードが一番心地良い移動スピードだったのだと思う。
くんぱちさんの店が見える通りに出ると、ミッチャンの足は止まって、
また歩き出した。休みなのだ。竹やぶのあいだには、
どこまでも闇しかなかった。仕方なく帰ることにした。生暖かい夜。
道の桜が夜空に白く光っていた。
しばらくたって、そのちらほらと花開く桜の下を、
アリクイが「シャクラだ〜」と、ひょこひょこ踊り帰った。
きんぱちさんはまだくるくると焼き鳥を焼いていた。

何日か後、あるいはそれかける7。
寝具売り場のミッチャン。何も買う予定はないのだけれど、
ついつい来てしまうのだった。あいだというあいだに手を
差し入れていた。めくるめくあいだが織りなすはざま。
パイル生地のタオルケット、もったりと垂れ下がる毛布、
整列された低反発枕、そのあいだから、白い
ふさふさとした手触りの、ぐわしゅとつかんで、しゅぱっと
放す。何だろう。これ。とミッチャンは思った。
むぐっと動いて、くりくりとした目がこちらを見ていた。
今まで見てきた目という目と片っ端から照合しているうちに、
向こうが恥ずかしそうに笑ったような気がした。
「お寿司屋さんのところのアリクイ・・・?」とミッチャンの脳の声が
心地良い周波数を取り戻して、口から出てきた。
「ハイ。そうなんです。」
何で寝具売り場で毛布に挟まれているのかを始め、80項目にも
及ぶ疑問の?の渦に巻き込まれた。
ミッチャンがもごもごしていると、アリクイはしーと人差し指を立てて、
もぞもぞと這い出してきた。さっきまでくるまれていた毛布を折り目正しく
畳んでいる。
「寂しくなると、たまにここに来て挟まれているんです。」と言う。
水平線上に青と白のストライプが折り重なっているTシャツを着ていた。
少しゼブラ気取り?
「あの、このことは、内緒にしてくれませんか?」とアリクイ。
うんうんとうなずくミッチャン。
「また今度」と言って別れた。

: : : :

今週は毎日のように映画を見ていた。
そして、CDなどを買った。
朝、ヨンナムさん?の話を聞きながら、
何だかそういう小説は読んでみたいと思う。
目が覚めると海の真ん中。助けられて港に着くと、知らないところ。
なぜだか特別待遇で、日々を過ごしていたら、
親と再会。でも、きっと何にも感じない日々。
で、きっと足からは貝割れ大根が生えている。
あるいは、段ボールの中から見える偏狭の世界。

投稿者 aikopa : 2:53 PM

June 29, 2006

ミッチャンは、がらんどうだった。

心の中だけじゃなくて世界が、がらんどうだった。
薄暗く、妙な湿気がまとわりついてきて、どこまでも
沈黙が続いていた。路地。
人気のない古い家屋が並ぶ。
どこかでチリンという音がした。
なぜだか分からないけれど、その音の方へ進んでいく。
チリチリン。また音がした。けれど、今度は音が少し逃げたような、
それとも近づいたような、そんな気がした。角を曲がると、
アリクイがいた。
赤い魚の描かれた風鈴を持っている。
アリクイがもごもごと何かを言おうとしているのだけれど、
鮮明な文節を構成することができずに、いつまでも
むうむう言っていた。
ぐらぐらっと世界が揺れる。
でも揺れていたのは世界じゃなくて、ミッチャンだった。
気づいたら、眠りこけていたのだ。
友達に起こされたミッチャンは半びらきの世界をぐるりと
見渡した。レストラン・フィブリノーゲン。
相変わらず、カリオペ・ザ・プロンプターズの曲が流れていた。
サビにむうむうというコーラスが入り乱れていた。
店内に寂しげに響き渡る。

: : : :

ミラクル眠い。今日は水族館に行った。タツノオトシゴのトリコになる。
アリクイには会えず。しゅうん。
最近のブームは、デボラ・ウィンガー。もっともっとデボラを見るゼ。
ウォレスとグルミットの犬の方のペンケースが東急ハンズにあって、
ぐぐっときた。ふさふさの猫バスとかジジのも、ふにゃふにゃになったけれど、
ウォレスとグルミットの犬はすごい。二次元がまさに三次元となった感じで、
ツルッとしたあの粘土の手触り感を表現した、抑制された毛並みが、
かわいさを倍増させている。いい。すごいかわいい。

投稿者 aikopa : 7:00 PM

June 24, 2006

アリクイがくんぱちさんのお兄さんに会っていた

その頃、ミッチャンはというと、その他大勢の友達と
レストラン・フィブリノーゲンにいた。
ぼんやりと会話を聞きながら、相づちを打っていたけれど、
頭の中では、床に届かない白い毛むくじゃらの足が
ぱたぱたしていた。
店内には、場違いな雰囲気のカリオペ・ザ・プロンプターズの音楽が
ジャカジャカジャン、ジャカジャカジャン、ジャンステーキジャンと
流れていた。
ジャンステーキジャンはステーキのたれの名前だったろうか。
何だったろうか。そんな疑問さえも小踊りしながら、素通りしていくほど、
がらんどうだったかもしれない。
ぱたぱたと宙を仰ぐ、がらんどう。
それには、ジャンステーキジャンもぱたぱたもフィブリノーゲンも
何の関係もないのだろうけれど、ミッチャンは妙にしっくり来ると思った。

: : : :

この前、おねいちゃんがよく利用していたショッピングサイトで、
買い物をしたら、初めてだったのに、いつもありがとうございます
みたいなメールが来た。はて?と思っていたけれど、
勘違いしている。ということに気づいたのは、今朝だった。
妹です。と言うべきか、でも微妙なので、妹です。とだけテレパシーを送る。
たぶん届かない。

テレパシーはというと、チャンピオンの朝食にたくさん出てきた。
一応、SFなのだと思う。著者自身の評価としては、良い作品ではないらしい
ということを知って、でも、それでも、チャンピオンの朝食は良い作品だった。
スキゾポリス的に超越しているのだと思う。完成度とは関係ない。おそらく。

そうだ。昨夜はユリコさんに会っていた。
ユリコさんは、む職はいい。む職はいい。と大いに励ましてくれた。
私としては、ユリコさんに醤油を渡すタイミングが合っていたこととか、
二人して乾杯もせずに飲み始めてしまったところとか、
ユリコさんの運命に任せる哲学とか、焼酎の味はみんな同じように思うとか、
そういう、ディティールがサンバを踊っていたように思う。

投稿者 aikopa : 9:13 PM

June 22, 2006

アリクイがむくっと起き上がると

くんぱちさんが手慣れた様子で焼き鳥の串を
くるくるとひっくり返している。
分けが分からずに目を丸くしていると、くんぱちさんが
声をかけた。
「ん?起きたかの?白いの。」
「くんぱちさん?」
「いやいや、私はきんぱちだよ。」
何と、くんぱちさんは双子だったのだ。
「くんぱちは弟で、私たちは五つ子で生まれてねぇ、
上から、かんぱち、きんぱち、くんぱち、けんぱち、こんぱちって
言うんだがの、今でもみんな、仲良しでよく会ったりしとるの。」
アリクイはくらくらした。
五つ子だ。
くんぱちさんが五人もいる。
「そんで、くんぱちが白い、毛むくじゃらのやつが手伝ってくれてるって
言ってたからの、ほら、お前さん、市電の前でぱたっと倒れとるから、
くんぱちんとこの白いのじゃないかと思って、ここまで運んできたのだよ。」
「あいよ。」と言って、
くんぱちさんのお兄さんは焼き上がったばかりの
「さ」から始まる焼き鳥を出してくれた。
聞いたこともない名前だったので、忘れてしまったが、
世界には何だか分からなくてもおいしいものがあるんだと
アリクイは思った。

: : : :

スローターハウス5も読み終わってしまった。
こっちはチャンピオンの朝食より悲しい話だった。
「プーティーウィ?」
みたいな最後のフレーズにやられてしまう。
戦争の、おそらく悲惨であるだろう体験が
この訳の分からない音群によって、
吹き飛ばされてしまう。
そういうものだ。
と彼は書く。何度も。

今日は朝と晩にこうや豆腐を食べた。
今夜もカレーだった。もう少しでなくなりつつある。
お風呂に入ってから、水を溜めて、しかも入浴剤を入れてから、
冷たいことに気づくまでは、今日、私の好きな悪態をつかなかった。

投稿者 aikopa : 8:58 PM

June 21, 2006

ぱたっと倒れたアリクイのその後

遠くの方でJRの電車が駅に停車している時の音がした。
鮮明なメロディーが雑踏に紛れて、アリクイの耳に吸い込まれていった。
うずまき管をぶるぶると振るわせて、アリクイの小さな脳に到達する。
ふわふわと夕闇を彩る焼き鳥の匂い。その匂いもまた、
みょーんと伸びたアリクイの鼻へと吸い込まれ、アリクイの小さな脳に
伝達されると同時に、ぐーという音を出した。アリクイが今日、
水族館で魚かペンギンかそういうのが泳いでいるのを見ながら、
みょーんと引っ張った、そのお腹だ。
お腹は、ぐーという音とともに、アリクイの意識を一気に舞い戻らせた。
目が覚めると、夜空の半分を赤いのれんが覆っていた。白い煙。
アリクイはどこかに横になっていた。後頭部の痛みを確かめるように、
頭をさする。何ともないようだった。こぶすらできていない。
焼き鳥のこんがりとした匂いがさっきからずっと、アリクイの鼻を
くすぐっていた。
「ねぎま、肉抜きで。お願いしますは。」
とんちんかんな声がそう言った。
「それじゃあ、ねぎだけふぁ。」
もう一つのすっとんきょうな声が言った。
その後も、ふぁふぁ言い合って、てけてけ去っていった。
むくっと起き上がると、そこには、くんぱちさんがいた。
あれ?とアリクイは思った。

: : : :

こうや豆腐を作った。何だか水気を吸い込んだ毛布のような味わい。
無性にねむくなり、ねむたくなったらねむる生活をしている。
夜もちゃんとねむるせいか、ねむり自体が浅く、夢を見る。
おねいちゃんが自転車に乗って、汗だくになっていた。
しかもウェディング姿。どうした。おねいちゃん。
私はというと、やはり、私も同じように、自転車に乗っていたような気もする。
細かいところは忘れた。
ヴォネガット・ジュニア。スローターハウス5。
読み進めるうちに、私が以前書いたもので、
自分では確信が持てなかった部分について、
何だか確信が持てたような気がした。
デタラメと詩的イメージの融合は美しいか。という問いだ。
今なら、それがどんな美しさだったのか。
分かる気がした。前よりもはっきりと。それを肯定できるような気がした。
それは、事件が起きる前のバーの暗がりの中で、蛍光料の入った洗剤
で洗われた衣類たちがぼーっと光りだす、そんな空間にも似ているのだと思った。
そして、私はより大通りに近づいている、大通りに限りなく近い道を、
大通りと永遠に平行していくその細く静かな道を、エバラの道を
行くのだろうと思った。
いつもこんな話をおねいちゃんにしていたような気がした。
おねいちゃんも、たまに思い出したように、むうむう言ってるんだろうか。

投稿者 aikopa : 10:11 PM

June 20, 2006

思考するアリクイそして、ふぁー

僕とアリクイを隔てているのは、とアリクイは思った。
アリクイになってからまだ自分は日が浅いのだ、あのアリクイが
今まで辿ってきたアリクイとしての記憶、アリクイとしての生活、
そしてアリクイたるための物語が、僕にはない。
ないけれど、それは、その記憶たちは、何の差異を生み出して
いるんだろう。僕も同じように光っていた。間違いなく。
何も違っていなかった。そのはずだった。
連れて行かれるまでは・・・。僕は、僕は、
どこに連れて行かれちゃうんだろう。どこに、どこに・・・
どこに・・・と思っていたら、ふぁーという音がして、
アリクイはぱたっと倒れてしまった。
気の抜けた、ふぁーという音がどこまでも続いていくような、
そんな気持ちになった。

: : : :

ヴォネガットだった。ヴォガネットじゃない。
スタバでアリクイの話をせっせと書く。
むぎ茶とかを入れる容器を買った。
そうだ。今朝は地震で目が覚めた。
ぐらぐらと来たので、毛布をかぶって、うろうろした。
うろうろしてる間に、くんくんとか言っている。
やはり寝ぼけているようだった。
昨日、コナンのオープニングを見たら、またコナンは
変な踊りを真剣に踊っていた。
やはりあれは好評なのだ。
冷蔵庫のアボカドは、一週間以上前に買った時点で、
食べ頃のシールが付いていた。今日こそは食べたい。

投稿者 aikopa : 3:47 PM
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May 31, 2006 8:38 PM いざ注文する段になって
May 20, 2006 9:07 PM またまたアリクイの話。
May 15, 2006 10:48 PM またアリクイの話。