May 16, 2004

手ぶくろを買いに行くのはだれ?

私はエリートコース沿いに公吏の仕事を何年か続けたが、
どうにもこうにも嫌になり、自分はやはりかねてから、
思い続けてきたけものになるべきだと思い立ったのだ。
思うが安し、言うも安し。私は一目散に、森の中の生活者へと
変貌していった。
日に日に人間の言葉を忘れ、けもののように木々の間を
駆けずり回る自分に、いつしかいくつかの仲間ができた。
リスの鈴木さんと、アライグマの田中さん、きつつきの石川さんだ。
毎日のように、私たちは歌い、のんびりと空を見たものだった。
ああ、こうして私はけものになるんだなぁ。
ふとそう思う瞬間の連続でした。
空を見ていると、やがて冬がやって来ました。
私のけものの手は、霜焼けで赤くなり、寒くて寒くて
かなわんわい。わいわいわいでした。
そうだ。手ぶくろを買いに行こう。
おお、そうじゃ。
私は、葉っぱで偽造したお金を握りしめ、
昔祖母が開業していた手ぶくろ屋さんへと向かいました。
空から白い妖精群がちらちらと舞い、町々の灯を
ぼおっと揺らめかせていました。
私は手ぶくろ屋の戸を三寸(約9センチ)ほど開け、
そこから人間の手に化けた手を差し出し、言いました。
「てぶくろをください」
それが私の最後の人間の言葉だった。
私は赤い毛糸の手ぶくろをはめ、上機嫌で森へと
帰っていきました。
ほっかほかです。幸せな冬がやって来ました。

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「手ぶくろを買いに」の三寸は約9センチだということは、
絶対、きつねなのが見えてるとずっと思っていました。
それがまた最近になって、そう思っていたことを思い出し、
あれこれと思っていたら、「山月記」と「手ぶくろを買いに」の
合体パロディをしたら、どうだろうと思うようになったのです。
けものになったかと思うと、いつの間にか手ぶくろを買いに
行っている。

そういうのに、少し惹かれました。

投稿者 aikopa : May 16, 2004 12:13 AM