June 19, 2006

アリクイはアリクイと見つめ合っていた。水族館で。

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夕やけ色に染められて、アリクイはぼーっと光っていた。
向こうのアリクイが光っていて、僕もおそらく
光っているんだろうとアリクイは思った。
何だか恥ずかしいような、何とも言えない気持ちで満たされたのは、
向こうのアリクイの目がじっとこちらを見据えて、
その瞳に映っているだろう自分の像もまた
向こうのアリクイをその瞳の中に映し出し、
無限に反射される自分と自分たちの像が
陽の光によってあたりに拡散されていくような気持ちになった。
けれど閉館時間が近づいて、アリクイはカゴの中へ連れられて行ってしまった。
残された一人のアリクイは、さっきまでそこにいたアリクイのことを
一生懸命思い出そうとしたのだけれど、あたりに拡散された像を
つかまえるだけで精一杯で、ただただアリクイの不在を、
ぽっかりと空洞化した視線を、
どこに置いたら良いものかと思っていた。

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カート・ヴォガネット・ジュニアの『チャンピオンたちの朝食』
一気に読んでしまった。ディティールが妙に詳しくて、比喩に使われた
コウノトリとかの挿絵まで付いている。
こんなにデタラメに張り巡らされた糸が絡まりながらも、ちゃんと一つに
まとめられている。内容は幸せな話ではないし、むしろ粗筋だけなら、
悲しい話かもしれない。でも、ユーモアによってぐるぐる巻きにされ、
プラスチックの配列のように繰り返される、混沌としたディティールを
超越していた。おそらく彼自身のために書かれた、
そんなスキゾポリス的作品だった。
他の作品もこれから読んでみる。

そして写真について。写真は、最近買ったコップ。
もうコップは買うまいと思っていた。
けれど、ゆらゆらと世界が滲むので、こんな風に世界が見えて欲しい日も
ある。
と思ったら、買ってしまった。
視線だけではなく、私も同様に空洞化している。

投稿者 aikopa : June 19, 2006 10:28 PM