June 21, 2006

ぱたっと倒れたアリクイのその後

遠くの方でJRの電車が駅に停車している時の音がした。
鮮明なメロディーが雑踏に紛れて、アリクイの耳に吸い込まれていった。
うずまき管をぶるぶると振るわせて、アリクイの小さな脳に到達する。
ふわふわと夕闇を彩る焼き鳥の匂い。その匂いもまた、
みょーんと伸びたアリクイの鼻へと吸い込まれ、アリクイの小さな脳に
伝達されると同時に、ぐーという音を出した。アリクイが今日、
水族館で魚かペンギンかそういうのが泳いでいるのを見ながら、
みょーんと引っ張った、そのお腹だ。
お腹は、ぐーという音とともに、アリクイの意識を一気に舞い戻らせた。
目が覚めると、夜空の半分を赤いのれんが覆っていた。白い煙。
アリクイはどこかに横になっていた。後頭部の痛みを確かめるように、
頭をさする。何ともないようだった。こぶすらできていない。
焼き鳥のこんがりとした匂いがさっきからずっと、アリクイの鼻を
くすぐっていた。
「ねぎま、肉抜きで。お願いしますは。」
とんちんかんな声がそう言った。
「それじゃあ、ねぎだけふぁ。」
もう一つのすっとんきょうな声が言った。
その後も、ふぁふぁ言い合って、てけてけ去っていった。
むくっと起き上がると、そこには、くんぱちさんがいた。
あれ?とアリクイは思った。

: : : :

こうや豆腐を作った。何だか水気を吸い込んだ毛布のような味わい。
無性にねむくなり、ねむたくなったらねむる生活をしている。
夜もちゃんとねむるせいか、ねむり自体が浅く、夢を見る。
おねいちゃんが自転車に乗って、汗だくになっていた。
しかもウェディング姿。どうした。おねいちゃん。
私はというと、やはり、私も同じように、自転車に乗っていたような気もする。
細かいところは忘れた。
ヴォネガット・ジュニア。スローターハウス5。
読み進めるうちに、私が以前書いたもので、
自分では確信が持てなかった部分について、
何だか確信が持てたような気がした。
デタラメと詩的イメージの融合は美しいか。という問いだ。
今なら、それがどんな美しさだったのか。
分かる気がした。前よりもはっきりと。それを肯定できるような気がした。
それは、事件が起きる前のバーの暗がりの中で、蛍光料の入った洗剤
で洗われた衣類たちがぼーっと光りだす、そんな空間にも似ているのだと思った。
そして、私はより大通りに近づいている、大通りに限りなく近い道を、
大通りと永遠に平行していくその細く静かな道を、エバラの道を
行くのだろうと思った。
いつもこんな話をおねいちゃんにしていたような気がした。
おねいちゃんも、たまに思い出したように、むうむう言ってるんだろうか。

投稿者 aikopa : June 21, 2006 10:11 PM